この記事は後編です。
3年間の試行錯誤の中で見えてきたのは、生徒の変化だけではありませんでした。その変化は、教員の関わり方や教育観にも少しずつ広がっていきました。本記事では、座談会で語られたエピソードをもとに、生徒と教員それぞれの変化を見ていきます。
*この記事は、令和7年度3月に行われた教員座談会をまとめたもので、所属・肩書は令和7年度時点のものです。

左から順に、陶山・福長・泉・倉田・沖村
[学年主任]沖村 将彦(地歴公民・教員歴20年)
[担任]倉田 隼輔(英語・教員歴3年)、泉 裕輝(理科・教員歴9年)、福長 悠生(英語・教員歴5年)、陶山 卓路(理科・教員歴6年)
*所属・肩書は令和7年度時点のものです。

[MC] 叶松 忍(株式会社PLAY SPACE/松本学園教育アドバイザー)
叶松:ここからは、生徒の変化について伺います。
「挑戦(1年生)」「成長(2年生)」「自創(3年生)」という流れの中で、生徒はどのように変わっていったのでしょうか。

倉田:3年間で大きく3つの変化があったと感じています。
「やりたいことを口にする」「行動に移す」「周りと合意しながら進める」
学年が上がるごとに、「やりたい」を言葉にし、行動できる生徒が増えていきました。
叶松:「やりたい」を言葉にして、行動に移して、さらに周りと合意しながら進めていく。そこまでできるようになってきた、ということですね。
個人の変化だけでなく、クラスや学年全体としての変化はありましたか?
福長:学校の外に出て、社会と関わろうとする生徒が増えました。
もともとは、中学校の頃には隣の人に声をかけることさえ難しかったような生徒も多かったと思います。そんな生徒たちが、学校の外に出て、自分のなりたい姿に近づこうと行動するようになっていった。
しかも、それを「みんなでやっていこう」という空気が、生徒同士の中で生まれていったんです。

叶松:個人の変化だけでなく、集団としての雰囲気も変わってきたということですね。陶山先生はいかがですか?
陶山:2年生のとき、教室に来ることが難しい生徒がいて、リセットステーションにもなかなか通えず、進級も危うい状況でした。
◆リセットステーション(RS):教室に行けなくても、オンラインで教室とつないで授業を受けることで単位認定ができる仕組み
陶山:3年生になり、生徒一人ひとりの興味関心から始まるMy探究(250人が250通りのマイプロジェクトを実践)など、進路を見据えた探究の話をしたとき、それまでとは一転して、1日も休まずに学校に来るようになったんです。
さらには、自分で進学先を考えて、どの大学で、どの教授のもとで学びたいかを調べて、実際に話を聞きに行くようにもなりました。
叶松:驚くべき変化ですね。自分で動き始めた。
陶山:はい。最終的には第1志望の大学に進学しました。毎日来るようになった最初の日の表情は、忘れられません。それまでとは全然違っていて、「あ、変わったな」って。今でも鮮明に思い出せます。

叶松:その変化の背景には、どんな要素があったと思いますか?
陶山:探究の中で、自分のやりたいことに出会えたことが、一つのきっかけになったのではないかと思っています。
叶松:生徒の変化の背景には、教員側の変化もあったのではないでしょうか。
福長:もともと自分の中には、「高校はこうあるべきだ」「勉強はこうするべきだ」という考えがありました。これまでの経験の中で、“当たり前”ができていたんだと思います。
でも、この3年間で、それだけじゃないなと思うようになりました。目の前の生徒から学ぶことが本当に多くて、一方的に引っ張るだけでは、生徒の心は動かない。一緒にやっていく姿勢がないと、ついてこないと感じました。
だからこそ、「こうすべきだ」と決めつけるのではなく、「どうしたの?」「なんでそう思ったの?」と問いかけながら、生徒の心の底の気持ちを汲み取って、一緒に考えていくようになりました。
叶松:教える側から、伴走する側へと変わっていった感覚ですね。
泉:最初は、自分のクラスのことしか見えていなかったなと思います。学年の方向性は意識していても、どこかで個人プレーになっていた部分がありました。
改革が始まって、探究を進めていく中で、先生同士で協力しないと成り立たない場面が増えてきました。そこから、同じ学年の先生たちと話す機会が一気に増えていったなと思います。
叶松:なるほど。
泉:この学年団って、みんな「俺が」「俺が」タイプなんですよ(笑)。
一同:(笑)

泉:それぞれ強い考えや思いを持っているんですけど、他の人の意見を否定しないんですよね。「なるほど、そういう考えもある」「自分はこう思う。なぜならこういう理由で。」そういうやり取りが自然にできるようになっていた。
心理的安全性がすごく高い環境になっていったと思います。だからこそ、自分も遠慮せずに発言できたし、他の人の意見もちゃんと聞けるようになりました。この3年間で、自分は“協調マインド”が育ったと思います。
叶松:協力せざるを得ない状況でもあったかと思いますが、そのおかげで個人ではなく、チームで教育をつくっていく感覚が育まれたんですね。陶山先生はどうですか?
陶山:僕はもともと、かなりルールにこだわるタイプで、“ゼロか100か”で考えるような人間でした。正直に言うと、人を信じていなかった部分もあったと思います。
でも、探究をやっていく中で、人を信じないと、成長は起きないと感じるようになりました。「50が60になったら、それも成長」そう思えるようになったのは、自分の中では大きな変化です。
叶松:完璧を求めるのではなく、変化を認めるということですね。
陶山:はい。これまでは、生徒を見ていて「次はこれだ」と思ったら、すぐに提示してしまっていました。でも、信じて待ってみると、自分の予想とは全く違う方向に動くことがあるんです。自分の想定外の方向に動いていく、それも面白いなと思えるようになりました。だから今は、ルールで固めるのではなく、少し余白を持って待つことを大事にしています。
それは生徒に対してだけでなく、教員同士の関係にも言えることだと思っています。
叶松:生徒との関わりの中で、教員同士の関係性も変わっていったんですね。

叶松:生徒も先生方自身も成長してきた3年間だったと思います。その中で、桜が丘高校の探究の「ここがすごい」と感じる点や、これからさらに良くしていくために必要なことについて、ぜひ教えてください。
福長:一番は、圧倒的に「量と質」だと思います。週1時間ではやりきれないことも、週5時間あることでしっかり取り組むことができる。
質の面では、他者の意見を否定せず、みんなで前を向いて進んでいく文化があります。さらに、学校の中にとどまらず、外に出て本物に触れる機会も多い。そういった環境も含めて、桜が丘の探究の強みだと感じています。
泉:僕らがこの3年間でやってきたことも、数年後には古くなっているかもしれません。場合によっては、来年にはもう違う形になっているかもしれない。だからこそ、教員自身も常にアップデートしていく必要があると思っています。
生徒と一緒に走り続けながら、教員も学び続けていく。
その中で、「置いてきぼりにしない」「投げ出さない」と言い切れる関係性は、この3年間で築けてきたものの一つで、桜が丘のすごいところだと思います。

泉:一方で、非認知能力だけでなく、認知能力も同時に伸ばしていく必要があると感じています。
この2つは相互に関係しているものなので、両方が高まることで、探究もさらに深まっていくのではないかと思います。
沖村:僕もそう思います。現状、総合的な探究とそれ以外の授業が分かれてしまっている部分があると感じています。本来は、非認知能力と認知能力を一体的に育てていくことが理想です。それらの統合をどう実現していくかが、これからのテーマになると思います。
叶松:「教科」で学んだ知識と世の中をつなぐ「探究」、これらの接続がこれからの大きなポイントになりそうですね。
沖村:はい。どうしても高校3年間の出口をゴールにしがちですが、生徒の人生はその先も続いていきます。いつ花が咲くのかは分からない。
だからこそ、高校卒業のその先を見据えて生徒と関わっていくことが大切だと思っています。「〇〇大学合格」ではなく、「人生で何を成し遂げるのか」、そういう視点で教育に向き合っていきたいです。
叶松:叶松:ありがとうございます。桜が丘の探究はこの先もどんどん進化していきそうですね。そのためにも、これからどんな先生と一緒に働きたいか、最後に一言、メッセージをお願いします。
倉田:“ぶっ飛んだ人”に来てもらいたいです。一緒に面白い授業をつくって、挑戦して、失敗して、また次に活かしていける、そんな人と一緒にやっていきたいです。

福長:桜が丘の生徒たちは、いつどこで花が咲くか分かりません。勉強でも、部活動でも、探究でも、どんな形でも、生徒一人ひとりに向き合っていく学校です。だからこそ、生徒と一緒に伴走していきたい。そう思える方に来ていただけたら嬉しいです。
泉:自分をアップデートし続けられる先生ですね。今のやり方が正解とは限らないので、常に見直しながら、より良い形を模索できる人。そういう人と一緒に働きたいと思っています。
この3年間で見えてきたのは、完成された教育のかたちではなく、試行錯誤を重ねながら更新され続ける過程でした。桜が丘の探究は、現在も発展の途中にあります。今回の座談会で語られた実践や問いを大切にしながら、これからも探究のあり方を問い続け、更新し続けていきます。
座談会の様子は動画でもご視聴いただけます。