週5時間、3年間。桜が丘高校では、「総合的な探究の時間」に本格的に取り組んできました。
そのスタートは、決して整ったものではなく、手探りの連続でした。
本記事では、座談会で語られた言葉をもとに、改革1期生とともに歩んだ3年間の試行錯誤の過程を見ていきます。
*この記事は、令和7年度3月に行われた教員座談会をまとめたもので、所属・肩書は令和7年度時点のものです。

左から順に、陶山・福長・泉・倉田・沖村
[学年主任]沖村 将彦(地歴公民・教員歴20年)
[担任]倉田 隼輔(英語・教員歴3年)、泉 裕輝(理科・教員歴9年)、福長 悠生(英語・教員歴5年)、陶山 卓路(理科・教員歴6年)
*所属・肩書は令和7年度時点のものです。

[MC] 叶松 忍(株式会社PLAY SPACE/松本学園教育アドバイザー)
叶松:先生方3年間お疲れ様でした。今日は、数々の修羅場を乗り越えてきた5人の先生方に、この3年間を振り返って、今だからこそ言えることをざっくばらんに伺えたらと思います。よろしくお願いします。
一同:よろしくお願いします!
叶松:2023年度4月、改革1期生が入学しました。その半年前から改革の準備が始まったと聞いていますが、その大きな柱として「週5時間の探究」が始まると知ったとき、率直にどう感じましたか?
福長:探究が週5時間になると聞いたのは、2022年の秋頃だったと思います。不安が9割。楽しみが1割でした。

福長:とにかく「週5時間をどう使うのか」が不安でした。当時は瀬戸内高校から異動してきたばかりで、ゴールや目的も自分の中で整理できていない状態でしたし、1クラス40人、学年で320人規模。 「本当にやっていけるのか?」という不安は大きかったですね。
叶松:桜が丘での初赴任ということもあり、実際にどう進んでいくのかイメージが持ちにくい部分もありましたよね。
福長:そうですね。初めてのことだったので不安もありましたが、同時に楽しみもありました。「何か自分を変えたい」「ここに来たら変われるかもしれない」そう思って入学してくる生徒たちに関われることは、すごく魅力的だなと感じていました。
叶松:生徒の変化の瞬間に関われる。まさに教員冥利に尽きますよね。
倉田先生はいかがですか?
倉田:みなさんは1期生の入学より半年前に改革(総探5時間)について知ったと言っていましたが、僕は4月に入職して初めて週5時間総探と知りました。当時は新卒で、教員経験もなかったのですが、改革1期生の担任をやらせてもらいました。
叶松:新卒1年目で担任、しかも改革1期生…かなりインパクトがありますね。
倉田:正直、自分がどんな状況にいるのかも分からないまま4月が始まりました。ただ、休憩時間に先生方が「次の総探どうする?」と話しているのを聞いて、「これはえらい状況なんだな」と徐々に理解しました。
一同:(爆笑)
叶松:みなさんえらい状況を乗り越えてきたからこその笑顔ですね(笑)

倉田:当時の校長先生や沖村先生から、 「これからの教育を引っ張っていく存在になろう」という言葉を何度もいただきました。
僕は「先駆者」という言葉がすごく好きなので、自分らしさを出しながら、それが未来の教育につながったらいいなと思って、週5時間の探究に向き合う覚悟を決めたことを覚えています。
沖村:改革1期生の学年主任になる前、入試広報部長として生徒募集も担当していました。まだ実績がない中で、「これからこういう教育をやっていきます」と中学校や保護者の方に説明していました。
叶松:まさにゼロからの発信ですね。
沖村:はい。その中で伝えていたのが、「非認知能力」の重要性でした。従来の学校では、点数などで測れる認知能力が重視されてきましたが、それを支える土台としての非認知能力を大切にしたいと。その話をすると、保護者や生徒がうなずいてくれるんです。

校訓「自考自創」を実現するために必要な資質・能力「桜が丘6マインド」は日々の授業の軸となっている。
沖村:オープンスクールを重ねるごとに関心が高まり、最後の入試説明会では500人を超える参加がありました。
叶松:それはすごい反響ですね。
沖村:嬉しさと同時に、正直、震えるくらい怖かったです。
同じ頃、先生方からも「具体的に何をするのか」とよく聞かれていました。自分自身も曖昧な部分があったので、 「そもそも総合的な探究とは何か」を改めて調べたんです。

沖村:2022年に総合的な探究の時間が生まれて、2023年は、いわば“1歳”。本当に新しい取り組みでした。これまでの学校ではやってこなかったことに挑戦できる。その意味で、わくわくしていました。
ただ、「週5時間」と聞いて、実際の授業数を計算してみたんです。
合計178時間。
叶松:178時間…!
沖村:正直、愕然としました。「やってくれたな」と(笑)。とんでもないことが始まるな、という感覚でした。

沖村:5単位(週5時間)という時点でも驚きだったんですけど、年間178時間って聞くと、「それ、先に言ってほしかったな」と。とんでもないことが始まるな、という感覚でした。
叶松:ここでですね、実はこの“年間170時間以上の総合的な探究”を導入した張本人に来ていただいています。桐原副校長、ぜひ、そのときの思いを教えていただけますか?

構想段階から学校改革をリードしてきた桐原琢副校長(2022年度~教育アドバイザーを経て2023年度副校長に就任)
桐原:こんにちは、桐原です。・・・実は、年間でこんなに時間があるとは、僕も計算したことがなかったです(笑)
全員:(爆笑)
桐原:ただ、探究を週5時間にしようと思いついたとき、「自分、天才だな」と思ったんですよ(笑)
全員:(笑)
桐原:本気でそう思っていました。当時、学校を1日見ていて、5時間目になると生徒がかなり眠そうだったんです。「これって意味あるのかな」と思いました。
だからこそ、その時間を“我慢する時間”ではなく、一番楽しい時間にしたいと考えました。昼休み明けに探究を置いて、「やりたい」「楽しい」と思える時間にしたいと。
叶松:ありがとうございます。 「一番眠い時間を、一番楽しい時間にする」という発想から、この探究が始まったんですね。
では、そうして設計された探究の時間が、実際の現場でどのように立ち上がっていったのか。改革1期生の生徒たちと初めて向き合ったとき、先生方はどんなことを感じたのでしょうか?
泉:生徒を実際に目の前にしたとき、最初に心に浮かんだのは「ありがとう」でした。

泉:改革をやりますと聞いて、それでも入学してきてくれた生徒たち。まだ実績もなく、うまくいくかも分からない中で、「楽しそう」「変わりたい」と思って桜が丘に来てくれた。
だからこそ、感謝と同時に、「どうにかしなければいけない」という思いも強くありました。1期生としての、使命感に突き動かされるようなスタートだったと思います。
叶松:期待と責任、その両方を強く感じながらのスタートだったんですね。
陶山:最初のミッションは、「つながりをつくること」だと考えていました。入学してきた生徒たちを見ていると、他者との関わりに対して不安や恐れを持っている生徒が多いと感じました。人間関係に悩んでいる、あるいは関係を築くこと自体に難しさを感じている。極端に言えば、ほとんどの生徒がそういう状態に見えました。

叶松:中学校までの経験が影響している部分もあるのでしょうか。
陶山:それは大いにあったと思います。だからこそ、まずは「人と関わることが安心できる場」をつくる必要があると感じました。その土台を、探究を通してつくっていきたいと考えていました。
叶松:心理的安全性、ですよね。
叶松:記念すべき生徒との出会いから、3年間走り続けてきたわけですが、その道のりは決して平坦ではなかったと思います。さまざまな紆余曲折や試行錯誤があった日々だったのではないでしょうか。
福長:振り返ると、全部に楽しさもあり、大変さもありましたね。探究の授業は基本的に午後にあるのですが、午前中は自分の教科の授業があります。
1年生(改革1年目)の頃は、午前中の授業を終えて、お昼休みに「今日の探究どうする?」と学年の先生たちと話しながら、片手に箸、片手にパソコンでスライドを作る、みたいな毎日でした。

改革元年、生みの苦しみを日々味わっていた教員たち。
福長:大変なことも多かったですが、生徒と真剣に向き合いながら、先生方と協力して、本気で取り組んでいた時間だったなと思います。
叶松:改革1年目はまさに、“生みの苦しみ”の中で生徒と向き合っていた時間だったんですね。
福長:そうですね。2・3年生(改革2年目・3年目)になると、探究の時間割も変わって、月曜2時間・水曜1時間・木曜2時間という形になりました。

1年次での経験を経て、2年次では時間割を変更した。
福長:生徒も週5時間の探究に慣れてきましたし、2年生からコースごとにクラスが分かれたことで、目指すゴールもより明確になっていきました。
改革1年目の経験を踏まえて、こちらも体系的なカリキュラムが準備できて、コースごとの探究や全体での取り組みなど、「自考自創」や「桜が丘6マインド」に基づいた学びとして、2・3年生は少しずつ軌道に乗っていった実感があります。
叶松:なるほど。試行錯誤を経て、少しずつ形になっていったんですね。
一方で、新しいことに挑戦する中で、「手放したもの」もあったのではないかと思います。ご自身の中で、「これは手放したな」と感じるものはありますか?
沖村:これまでの学校では、「良い先生」とは、授業中に生徒を前に向かせて、静かに座らせている先生、という価値観があったと思います。
でも探究では、それが必ずしも良いとは限らない。むしろ、動き回っていたり、議論していたりする方が、学びとしては意味があることも多いんですよね。

だからこそ、「良い先生とは何か」という価値観そのものを手放して、アップデートしていった感覚があります。
叶松:これまでの“良い先生”を手放した、ということですね。
泉:正直、教員が全部答えを示した方が楽なんですよ。授業でも、クラス運営でも、「こうだよ」と言ってしまえば早い。無意識のうちに、そうやって“早く解決する方法”を選んでいたなと、改革前の自分を振り返ると思います。
叶松:確かに、効率だけで考えればその方が早いですよね。
泉:でも、「自考自創」を掲げる中で、教員が答えを示してしまったら、それは“考えたこと”にはならない。ただ答えを知っただけの、“便利なGoogle先生”が生徒の目の前にいる状態なんですよね。
叶松:「便利なGoogle先生」、インパクトありますね(笑)
泉:はい(笑)。僕は、その「便利なGoogle先生でいること」を手放しました。

泉:例えば外総探でも、行き先を考える中で、改革前なら「それは無理だよ」と伝えていた場面でも、「いくらかかるか計算してみよう」と問い返すようにしました。時間はかかりますが、生徒自身が気づくことの方が大事だと思っています。
外総探:生徒自身が「自考自創」や「6マインドの成長」を踏まえ学校外での1日探究を考え、企画・提案し、実行するもの。
泉:自考自創を体現する生徒を育てるためには、教員自身も“答えを与える存在”を手放さないといけないと思っています。
叶松:いいですね。まさに、試行錯誤の中で、“これまでの当たり前を手放してきた”ということですね。
3年間の実践は、決して順調なものではありませんでした。試行錯誤を重ねながら、その都度やり方を見直し、少しずつ形にしてきた過程でした。その中で、生徒や教員にどのような変化が起きていたのか。後編では、座談会で語られた言葉をもとに、その変化に焦点を当てて見ていきます。
座談会の様子は動画でもご視聴いただけます。
この記事は前編です。